「修繕」と「交換」

updated: 2018.08.01.

現在の正解はどちらか?
「修繕」と「交換」

 バキっと鈍い音がして、排水のバルブがもげた。慌てて、給水の蛇口を閉めてもお湯が止まらない。これは、まずい。スリランカの世界遺産の街、ゴールにある「アマンガラ」での出来事だ。客室でのトラブルは、商売柄慣れているので、ほとんどのことでは動揺しないが、この時ばかりは焦った。アマンガラは、旧植民地時代のコロニアルスタイルの邸宅を改装していて、静寂していて、淀んだ南国の気怠い空気がゆったりと漂うタイムスリップしたようなホテルだ。油が染み込み磨き込まれたフローリング、高い天井、天井扇、漆喰壁、柱・梁のくり型、そして猫脚のバスタブは、60㎡もある部屋の真ん中に鎮座している。日本のように下部に防水パンや防水が施されているわけではない。それなのに、お湯はリゾートにふさわしくなく勢いよく出て、排水も抜けない。オーバーフローなどという小洒落た装置が、この猫脚バスタブにあるはずもない。
 部屋中水浸しだし、ここは2階だから、一体どうなるのかと、途方に暮れかかったが、フロントに電話をした。すぐにお爺さんが現れて、あー、またねという風情で、遠い位置のクローゼットの中にあったバルブを閉めてお湯は止まった。彼は、「ネクストルーム、何とか」と言って出て行ってしまった。隣の部屋に移れということかなあと思っていると、5分もしないで戻って来て、蛇口も排水も、手慣れた様子で交換してしまった。あまりの鮮やかな手技に脱帽。翌朝、GMにみごとでしたと話をした。GM曰く、スリランカは島なので、物品、とりわけ専門的な部品が簡単に入らないため、家具、衛生器具部品などは、ホテル内で修繕して使う伝統があるのですとのこと。
 そういえば、携わった横浜や奈良のクラシックホテルには、元大工さんの修繕係が常駐しており、ちょっとした壁の補修や、木の渋い看板の製作、猫脚の椅子などを直してくれて、とても助かった。良き伝統だと思う。これが、内装会社経由などで直そうと思うと、何人もの関係者に同じ説明をし、最後には、もっとまとまってから注文いただけないですかねえと、経費だらけの見積り書を見ながらため息をつかれる始末となる。となると、すべて新しいものに交換となる。これはこれで、少しだけ寂しい感じはするが、現在の正解の一つなのかもしれない。
 これと似て非なるものがある。築20年を経過したエレベーターである。不幸な事故などがあり、ブレーキと扉の煙を遮断する機能を設置しなさいという法律改正(既存遡及)が行なわれた。今のエレベーターは、ほとんどが機械室がない方式なので、部品がまったく違う。それ故に、メーカーは部品がなくなりますと言う説明をして、新品と同等程度の金額を提出しているようだ。ご注意あれ。