アンダーズ 東京

updated: 2015.01.01.

非常識の常識

 常識は、何故に常識なのか説明がつかないことが多い。「アンダーズ 東京」は、まさに常識の逸脱の集積だ。まずはデザインを売り物に、カテゴリーはパーク ハイアットとグランド ハイアットの中間としている。デザイン系ホテルはこじんまりとしたブティック系ホテルという定番を逸脱している。そもそも、デザインは商売になるという世界での実績を踏まえての開業なので、日本の常識は世界の非常識なのかもしれない。
 敷地は道路の真上にある。線路の上にはたくさん駅ビルが建っているのだから、道路の上に建物が建っても不思議ではないのだが、都市計画法・建築基準法では厳しく禁じられている。されど、虎の門と新橋を結ぶ「新オリンピック道路」と呼ばれる真上に、虎の門ヒルズは、そびえ立つ。これは、89年に法改正され、立体的に交通が確保されれば建築が可能となる「規制緩和」の代表。防災拠点やヒートアイランド現象緩和などの方策を講じれば、新たな敷地が捻出できる「非常識の常識」の好例だ。
 ホテルは最上階51階がロビー階で、その下4層164室の客室、さらにその下9層がレジデンス172室を配し、37階にスパという構成。1階の車寄せから、専用高速エレベーターで最上階まで昇り、扉が開くと、そこは眺望が広がる天空の世界、という常識ではなく、暗いエレベーターホール。そして、スタジオと呼ばれるバンケットゾーンとラウンジに左右に分かれる。ラウンジも、外には面しておらず、無垢材のウオールナット変形テーブルが置かれているだけ。ここでチェックイン、ウエルカムドリンクサービス、夕刻にはカクテルサービスも行なわれている。「ホテルの格式は、カウンターの長さで決まる」と書いた教科書は、昔の遺物である。外の風景は、売上に直結するレストランとスタジオに充てられる。
ラウンジには眺望が必要という常識を外せば、天井も高く、壁にはアルコーブを設けるなどデザインのアレンジもしやすく、合理的な帰結である。
 客室は、水回りが充実しているのは時代の潮流で、標準客室約50㎡の内、寝室は3分の1程度に過ぎない。浴槽も深さ、大きさともここまで必要?と思うほどの日本旅館のその大きさだ。一方で、回遊式のレイアウトやクロゼットと浴室の位置関係、鏡の配置などはハイアットの掟を守っている。踏込部分は、小豆色の御影石だが、水回りには、テラゾー(人工大理石)が用いられている。この材料は、かつて日本では輸入の大理石が高かった頃、その端材を砕いて色モルタルで石風に造ってもの。いわば、手間賃が安くて材料が高い時代の過去の産物だと思っていた。こうして、トニー・チーは、大理石よりも微妙に柔らかなテラゾーの風合いを、肌に直接触れるところに用いた。常識へのとらわれは、私自身の中にもあると改めて思った。