ザ・ペニンシュラマニラ

updated: 2016.06.01.

本家以上の雰囲気を創出。
ザ・ペニンシュラマニラ

「ブラック オア ホワイト?」「アイアム、イエロー」と返答したら、受けた店員にも後ろで待っていた背の高い黒人さんにも、腹を抱えて大笑いされてしまった。20年ぐらい前、ボストンのファーストフードチェーン「サブウェイ」での出来事だ。単純に、パンの種類を尋ねられただけなのだが、その頃、日本ではサブウェイなんて馴染みが薄かったので、大恥をかいてしまった。
 帰国したら、銀座にサブウェイができていた。早速入ったら、同じように聞かれ、今度はライ麦のパンでと、周囲の羨望の眼差しを少しだけ感じながら、答えた。
 果たして現在、東京中にサブウェイがあふれかえるということにはなっていない。その原因のひとつが、パンの尋ね方、味付けなど、比較的本国のやり方を踏襲しているからかと思った。海外のブランドが日本でもそのまま通用するのかという、古くて新しいテーマだ。
 人々の会話の声が、3層分の高い天井の下、優雅なBGMに聴こえる。ハイサイドから南国の柔らかな陽射しが差し込む。コロニアルスタイルのバルコニーが連なり、人々がアフタヌーンティーを楽しむ。本家のザ・ペニンシュラ香港のラウンジ以上に、ペニンシュラだ。しばらく、ここはマニラということを忘れてしまうほどだ。客室棟全体は素っ気ないアパートかと思うような造りで、中心地を背に向けてコの字型に建っている。エントランスロビーはその前面に、客室に抱かれるように、アトリウムとして、そして、ゲートとして、天井高を20m以上持ち鎮座している。マニラの喧騒から隔絶するタイムマシンのような存在でもある。
 ちなみにこの設計手法はポピュラーで、私もよく使う。たとえば、古い建築を通ってインテリアを展開させるといった場合だ。他にも、宴会場を増築する場合など、そのままつなげるとスケールやデザインなど違和感を生む場合が多い。そこで、その間に天井が高いデザインされたホールを差し込むと、ホワイエの役目も果たしつつ、馴染みがよいなど、応用事例は多い。
 それしても、ここまで同じにしなくても、とは思った。香港とマニラの違いを細かく比べると、置いてあるヤシの木の大きさ、照明がガラスかスチールかなど、まちがい探しのようだ。ザ・ペニンシュラ東京は、デザインは違うけれど、エントランスホールに人々が集い、展開して賑わっているスタイルは踏襲している。建築家の独善のようなアトリウムホールがあるより何百倍も魅力的で、ペニンシュラへの期待を裏切らない!自らのスタイルを持つのは、強い。意外と普遍なのかもしれない。
 ただ、そのスタイルを本家もどこまで魅力的に保てるか、発展させられるかによって、分家の魅力も変わると思う。最近訪れたザ・ペニンシュラ香港のアンニュイな緊張感の薄さに、危うさを感じた。