ジェミニ・レジデンス

updated: 2016.02.01.

サイロが集合住宅に変貌。
コペンハーゲンの「ジェミニ・レジデンス」

 運河沿いに自転車を走らせた。場所は、デンマーク・コペンハーゲンのチボリ公園から15分ほど走った海沿いだ。突然、丸くウネウネとした巨大な塊りが目に飛び込む。表面はバルコニーのガラスがキラキラとしている。なんだ、これは。立ち尽くしていると、髭面の男性2人が腕を組み、パンを抱えて中に入っていく。話を聞くと、2005年にできた集合住宅で、元は穀物飼料を入れるサイロ(貯蔵庫)だったとのこと。デザインはオランダ人のユニット。中を見たい?と聞くので、付いて行った。
 足元はサイロの壁がむき出しになっていて、そこを潜ると、ガランとした丸い空洞に階段やエレベーターシャフトがガラス屋根の下に点在している。この部分が元サイロで飼料が入っていたのかと合点したが、知らなければ、明るく洗練さた空洞は贅沢なアトリウムにしか見えない。住戸は、すべてこの壁の外側にキャンティレバーで設けられている。その構造的特徴より横長の部屋で、各部屋から運河とその風景が広がる。家具はヤコブセンを主体にしてあって渋い。これは並々ならぬデザインで、自分の不勉強を恥じながら、髭面の2人に礼を言い、引き上げた。
 ヤコブセンが手掛けたSASロイヤルホテル(現・ラディソン ブル ロイヤル ホテル)に戻る途中に立ち寄った本屋やインターネット上で、一つひとつが染み込むように資料を調べた。建物の構成は、以下のようになっていた。湾岸開発で、不要となった2つ並んだ巨大なサイロをどうするかという課題が発生。ロッテルダムの建築家集団、MVRDVは、サイロの構造体はそのままに、その外側に住戸をくっつけるという案を提示して実現させた。保存を前提とすると、普通の発想ではサイロ内部に住戸を造ることを検討する。そうすると、構造体に開けられる穴は限られるので住戸としては成立せず、窓が不要な商業施設か美術館かのプログラムが考えられる。この地区の整備方針はオフィスと住戸の一体化なので、アウトだ。日本では、行きつく結論は簡単で、サイロを撤去して新しい住宅を建てる。産業遺産を保存し、ましてや、もっとも縁遠い住宅にコンバージョンできるはずなどないと考えるのが、ごく普通だ。
 だが、時代は変わりつつある。石見銀山、長崎の軍艦島、富岡製糸場などの産業遺産が世界遺産に認定され、その価値がようやく広まっている。わが町も活性化する目玉がほしいと考えている方々に、この観点で周りを見てほしい。産業遺産の構造体は概ね強固で、再利用できることが多く、壊して造るよりも、工期、コストでも有利な可能性がある。単なるノスタルジーだけで保存・活用を考えると、結局は維持できないことが多い。それまで、ただの工場や鉄の塊りと思っていたものが、新しい宝物に変わるかもしれない。