ミュウミュウの挑戦

updated: 2017.09.01.

表参道で輝く銅板の素地仕上げ。
ミュウミュウの挑戦

 表参道のプラダの斜め向かい、姉妹店のミュウミュウが、2015年にできた。本家プラダより一応、カジュアル(お値段はエグゼクティブ)。設計は、同じくヘルツォーク&ド・ムーロン。工事中、足場が外れても外観はずっとシートで覆われ、そのベールを脱いだのはオープニング当日という思わせぶりであった。透明感があふれ、三角形のガラスの組み合わせのプラダ(ちなみに、私はこのコンペに参加して完璧に負けた。今でも、このプラダの中に入ると、プリズムのようなガラスに三半規管が狂い、船酔いするような気がするのは、その時のトラウマか)の想像を膨らませていた期待に反して現れたのは、金属の斜めな平板の板だけだった。はっ? と店に入りかけて振り返ると、赤茶色の金属が、鋲を打たれたような凹凸を持ち、鈍く光っている。まさかとは思ったが、これは銅板の叩き出しだ。鍋底のような鈍い光は、インテリアからも壁の一面を構成して、薄黄緑の家具(プラダカラーに近い、銅板の赤茶色とは補色関係)と、完全に一体化している。
 銅板は、その古くは神話時代の銅鏡から始まり、お寺の屋根に葺いているので、日本では馴染み深い。複雑な屋根に用いられるのは、銅板が柔らかく、その形に馴染みやすいからだが、時代を経て、あの緑青に変わっていくのが高級とされ、好まれたからでもあった。ただし、銅は硫黄と結びつきやすく、排ガス規制が今までほど厳しくなかった時代、人工的に緑青を付けた銅板ですらも亜硫酸ガスに侵され、すぐに黒ずんでしまって問題になった。世田谷美術館は内井昭蔵氏の傑作であるが、建設当時、屋根と妻側の壁が緑青で覆われていた。環八道路の脇にあったので、屋根はすぐに黒ずんでしまって、かつ腐食も進み、10年ほど前に改修されたが、なんと、黒っぽい硫化いぶしで葺き直されてしまった。学芸員に話を聞くと、区民の記憶では屋根はこげ茶色なのでとのこと。しかしながら、最近排ガスが改善され、再び緑青化してきている。私が設計した西麻布権八(01年竣工)の外壁も、銅板の硫化いぶしによる下見板風なのだが、年々、緑青化が進み、独特の風合いになってきている。
 板金工事(とりわけ銅板)は、正直、最先端や流行りではないと思う。もっといえば、消えゆくような職種なのかもしれないと、馴染みの職人の親方に嘆かれる。確かにそうかもしれない。接着剤と塗り材料の性能が飛躍的に発展し、建物をカバーしてしまえば、竣工時の姿を維持しやすいのも事実だ。あえて経年変化するような仕上げは、好まれない。
 それにしても、表参道にある最先端のショップに、半歩まちがえるとお寺になってしまいそうなこの銅板の素地仕上げを、堂々と用いる。鈍い、ギラっと光るあの素材感に日本を感じたのに違いない。