上島珈琲

updated: 2016.11.01.

上島珈琲のソファの角度。
50年代を現代に合わせてアレンジし直す

「そうだ、京都、行こう」。京都「に」行こうではない。この「に」が入らないだけで、こんなにも言葉の響きが違うものなのかと感じる。京都と言い切ることで、その背後にある文化、伝統、美味、風景の圧倒的優位性を簡潔に表している。背筋がゾクゾクするほどの、名コピーだ。そのCMで流れている「マイ・フェイバリット・シングス」(1961年)は、コルトレーンなどが演奏してとても有名なジャズの名曲。元は、ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」(1959年)の挿入歌であることは、あまり知られていない。京都という和風の総本山に、ジャズの組み合わせ、絶妙だ。もし、あのCM画面に琴が流れていたら、まったく別の世界が広がっているし、インパクトもなかった。
 そこに1950年代のジャズ。なぜか、日本の風景と2010年代の感覚が共鳴している。コルトレーンは、この曲をソプラノサックスで3拍子で吹いている。画面の上では、4拍子にアレンジして、季節ごとにキーも変えているように思う(違っていたら、ごめんなさい)。原型はあくまでも50年代なのだが、現在の感覚にアレンジし直している。聴く人にとっては、これがジャズの名曲だとは思わないだろう。
 珈琲が好きだ。1日に5杯ぐらい飲みたいところを、3杯ぐらいで抑えている。とりわけ、ドリップ方式の柔らかいまろみのある味が好きだ。スターバックスに代表されるツンツンした味も、私にとっては朝はおいしいのだが、午後にはきつい。そう、好みでいえば、上島珈琲の味が懐かしく、ほっとする。インテリアも大谷石と飴茶色の木を使い、アートワークもジャズのレコードやプレーヤーなどが置かれ、そして音楽は50年代ジャズが流れている。珈琲の味、雰囲気。50年ぐらい前の空気感が、日本的な落ち着きを演出することと合致していると、肌で共感する。
 注目すべきは、ソファ類である。デザインは、50年代のデンマークそのもので、異論はない。あの時代のほとんどすべてのデンマークソファは、5度前後、後傾している。これは、ソファに腰を降ろした時、自然と身体を背中とお尻でバランスよく支えられるように考えられたものだ。かつては、本も厚手で重たかったので、疲れを少なくし、寛ぐということでも、身体を背中でも支えたかった。しかし、パソコンに向かったり、食事をするとなると、前にかがまないとやりにくい。私もそうだが、姿勢が悪い人が増えたのは、パソコンが原因と言い訳しても仕方がない。ちなみに、現在の椅子のデザインはまったくのフラットから、むしろ少し前傾している。上島珈琲のソファは、デザインは50年代のデンマーク風なのだが、座面はフラットにしてある。なるほど、コルトレーンも4拍子のほうが耳に優しく響き、日本的情景が広がるわけだ。