吐水口あれこれ

updated: 2017.08.01.

お湯の流れを演出する
吐水口あれこれ

 深山の冷気、森の香り、硫黄の匂い、雉の鳴き声、そして、この流れ込む湯量の豊かさ。あー、日本人に生まれてよかった、と思える瞬間だ。ここは数年前、湯の白濁が問題になった温泉の露天風呂。源泉掛け流しで、かつても今も素晴らしい湯だ。白濁させたかったのは、サービス精神が過剰になってしまったのだろう。とりわけ私のお気に入りは、湯船より5mぐらい先にある、源泉が噴出している土管みたいなもの。硫黄の問題で離してあるのだが、ここから半割の竹を伝わって、あのきらめきが、さらさら、たゆたゆ、どぼどぼ、白い湯気を伴って流れ込む。遠くにあるのはまったくの偶然だが、水の流れる姿は、ずっと、のぼせるぐらい見ていても飽きない。地球の大地の熱気を感じる。すばらしい演出だ。この長い竹竿の吐出口のアイデアは、山形県・かみのやま温泉の「日本の宿 古窯」の露天風呂に応用させてもらった。源泉掛け流しで、熱くて湯量が豊富な温泉にしか適さない技なので、どこでも使えないのが残念だ。
 20年ぐらい前のことだ。伊豆の洗練された家族風呂で有名な温泉のお湯が、キラキラして、柔らかそうに見えた。なぜだろうと注意深く見ると、天井からハロゲンライトのスポットライトを照射していた。この光は照度ではなく、輝度(文字通り、輝く度合い)の高いライトで、グラスの氷なども硬く透き通って見える。光の当て方一つで、お湯の質感がまったく変わるということを学んだ一瞬だった。しかしながら、浴室のような湿気が多いところでは、ハロゲンライトの使える機種は一つだけであったが、現在では、LEDにより使えるものも増えた。
 もちろん、あの象さんの鼻のような普通の吐水口も好きで、よく用いる。若い頃、メジャーを持ってお湯に入り、東北の湯治場にある木造の形の原寸をメモしたことが懐かしい。それを応用して、花崗岩で同じ形や丸い形にしている。
 こうやって、いつも苦しくも楽しみながら、吐水口を考えさせてもらっている。この発想とはまったく逆で、意匠的なバスシャウトを見せないという手法を用いた例もある。長野県・小布施町の「枡一客殿」の風呂だ。デザインはジョン・モーフォードで、浴槽は強化ガラス製、壁から100mmぐらい空け、内部はモザイクタイル。特徴的なのは、子供なら溺れるぐらいの深さ、750mm。デザインはとってもエッジが効いているが、肩までゆったり浸かる感じは、昔の五右衛門風呂のようだ。これには、賛否両論があるようだ。ここには、吐水口がない。浴槽の一部上部にステンレスの台があって、初めは何だろうと思うと、その真下からドバドバとお湯が噴き出る。なるほど、吐水口のデザインで悩む必要もなく、水量も確保できる。こんな方法は、日本人からはちょっと発想できないかな。