和室のマット

updated: 2017.11.01.

寝た時の風景が変わる
和室のマット

 よれよれと階段を数段登り、部屋に戻ると、布団が敷いてあった。少し酔った身体を思わず投げ出すと、ボワンと跳ねた。ふー、極楽だな。でも、あれ、妙に天井が近いし、風景も違って見える。ロックバンド、ドアーズの歌ではないが、周りが違って見える時は、自分が違っているのかと思って、落ち着いて再実測する。天井8尺1寸(245cm)、鴨居5尺9寸(179cm)。余談だが、この内法高さは、和風建築のもっとも大切な基準寸法で、かつては5尺8寸(176cm)と決まっていた。だから、古い建具が他の建物でもそのまま使用できた。しかし頭をぶつける人が続出したので天井高が上がってきたのだが、この寸法を高くすればするほど、不細工な和室になる。ちなみに、私は180cmと決めて25年余り。村野藤吾先生はプライド高く、センチ換算されても179cmとされている。柱にいたってはすごく細く、3寸1分(94mm)。やはり、村野藤吾の傑作、ウェスティン都ホテル京都「佳水園」の客室そのものだ。
 では、なぜ違和感があるのかと、自分が腰掛けている布団を見ると、厚さ25cm余り、敷布団と合わせると30cm余り、畳から高くなっている。そういえば、すれ違った客室係の人達が2人掛かりで、この布団を運んでいた。その晩、しっとりした和の佇まいか、ベッドのようなクッション故か、よく眠れた。でも、朝起きると、やはり違和感のある世界であった。そういえば、先日、久しぶりに畳に敷布団だけの上に寝た。あー、やはり、畳の上はいいなあと思うのに、5分ぐらいかかった。畳の上で寝ることに、年々違和感が増えていることは、まちがいなく現実だ。
 ある世界的な企業に勤める方のご自宅を設計したことがあった。全館、輻射式セントラル空調なのだが、ある日、奥様から呼ばれた。寝室に壁掛けエアコンをつけてほしいという。主人は眠る前、少し部屋を冷やしてからエアコンを消し、ベッドに重たい布団を掛けて寝るのが好みなのだそうだ。寝るということは、小さい時からの感覚的なものなのだと知識では知っていたが、改めて教えていただき、教訓として今も大事にしている。
 ベッドの高さもかつては42cm前後で、椅子の座面ぐらいの高さが普通であった。昨今では、有名ブランドのベッドを売りにするホテルも多く、65cmぐらいもざらだ。ちなみに、マットそのものは40cmもあれば、充分に高性能なものになる。20cmもベッドが高くなれば、当然のことながら、寝た時の風景が違って見える。日本で建築するときは、階高の関係と天井裏に設備系のものを入れることが多いので、天井の高さに制約が多い。その中で、ベッドだけが高くなるのは、米系チェーンホテルの標準スペックの影響だろうか。もしくは、日本人の寝る時の感覚が少しずつ変化してきているのかもしれない。