耐震診断報道の虚実

updated: 2018.06.01.

印象操作により本質的解決はされず。
耐震診断報道の虚実

「危ないから、下がってください!」と、役所の職員と思しき方が絶叫していた。10年ほど前に日本中を騒然とさせた姉歯事件の際、耐震強度が1割ほど低いとされた新築マンション前での一コマだ。この報道を見て、これから発生する事象を想像し、暗澹たる気持ちになった。なぜならば、技術的な検証がなく、不安を煽るだけの報道だったからだ。
 その後の展開は、国会での委員会(空虚な内容)を経て、建築基準法の構造の審査の手続きが無用に厳しくなった。そして、いわゆる官製不況が発生し、日本中で建築工事が滞った。詳細は省くが、現在はある規模以上の建築の構造の審査には、5人の一級建築士の印がないと確認申請が下りない。何か問題があると連座制だ。これでは、江戸時代の五人組と変わらない。姉歯事件の本質は、建築士というライセンサーがつくった高度な専門書類に、役所がどれだけ担保しなければいけなかったのかということにある。元々、書類を預かる(確認する)だけの制度で、許可(審査するというシステム)ではない。その意味では、役所のお墨付きに意味はなかったはずなのに、裁判では役所にも損害賠償の責任が発生した。挙句の果てに、建築士は3年ごとの定期講習が義務付けられ、国土交通省が新たにつくった外郭団体が統括している。これでは、建築士をいじめて、天下り先を増やしただけで、ライセンス制度そのものを否定している。
 先日、各都道県で耐震診断義務がある建築の診断結果が公表された。個人的な感想は、ほとんどの建築が1981(昭和56)年に改正された現在の構造基準(新耐震基準)をクリアしているのに安心した。それでも新聞報道では、世の中は耐震上危険な建築だらけで、大地震があると音をたてて崩壊していくかのような印象操作をしているようだ。新宿の某有名書店は、IS値(耐震基準の一つの指標)では現在の基準で半分だった。一般的に、この値が半分以下だと、耐震補強の経済合理性が難しくなる。ただし、この耐震診断の数値は、客観性があるようでない。まず調査者が膨大な数値入力をするのだが、この時に経年劣化の値などで入力者の意思を反映できるからだ。その上で、構造計算プログラムで解析する。建て直しをしたいという誰か(ときには社会)の強力な意思が反映されているとしか思えない耐震診断書を目にすることは、めずらしくない。また、耐震設計・工事を専門とする業者がやれば、耐震工事をしましょうという結果になることが多い。結果の数値は大変尊重するべきものだが、個々の建物の用途、もっと専門的にいえば、耐震上弱いとされているならば地震時の崩壊過程(転倒するのか、ある部材が座屈して崩壊するのかなど)をよく確認すべきだし、専門家も丁寧な説明を行なう必要があると思う。