カミノ レアル ポランコ メキシコ

updated: 2006.08.01.

迷路の楽しみ

 車寄せでタクシーを降りると足元に、渦巻く噴水からの飛沫がかかる。「何なんだ!」と、クラシックカーがポツンと置かれてある脇で思わず叫んでしまった。ここはメキシコシティのホテル、カミノ レアル ポランコ メキシコのエントランスだ。ベルボーイが荷物を預かりに来てくれるが、渡したら「グラシャス」と言ったまま荷物と共にどこかに消えてしまいそうで、自分で持ってロビーに入る。
 強烈な陽射しから一転、屋内に入り目が慣れてくると、大きな壁画のすばらしさに立ち尽くしてしまう。振り返って見れば、先ほどの噴水が逆光の中で1枚の絵画となっている光景、すごい!
 正面の階段を上り、ミューラルアートのみごとさに見入り、右に曲がって、やっとフロントだ。サービスはテキパキ、かつ、フレンドリー。今度はさすがに荷物を持ってもらって客室へ─遠い旅に出る破目になる。このホテルは中層建築で、やたら横に長い。なまじっかスイートを予約したのがまちがいか、はるか遠い棟まで延々と歩く。ただし、途中のいくつかの吹抜け、噴水、メキシコ的色彩と光のコントラストを配した中庭と階段、そのあらゆるところにオブジェ、ミューラルアートが配され、パブリック空間は美術館の中を泳いでいるかのように楽しい。
 スイートルームは、質の高い美術品が自然に飾られている。一体、誰がこれらをセレクトして、配置したのかと尋ねれば、建築家自身であるという。設計は、リカルド・レゴレッタ。メキシコが生んだ偉大な建築家の一人で、当ホテルは1968年開業、つまり、メキシコオリンピックのために造られたホテルである。これが、40年も前のデザインなのか。とても信じられない。最近世界中に蔓延しているデザイン系ホテルの薄っぺらさとは格が違うオーラが、いたるところに漂っている。私は、うーん、「メキシコのホテルオークラ東京だな」と思った。
 とはいうものの、このホテルの致命的な欠点と魅力は背中あわせである。714もの客室といくつものレストランが、中層(5階建て)で横に広がっている構成では、迷子になるのは必然である。私のようなホテルそのものを楽しみに来ている人はそれでよしとするのだが、途中で年配の日本人夫妻から、「先程から30分も自分の部屋を探しているんです。でも、とても綺麗だし楽しいですよ。かつての日本の旅館も迷路のようで楽しかったのよ」と。彼らは、ロイヤルスイートに宿泊中で、私の部屋とは隣同士だった。そこで、日本の旅館の迷路の話ですっかり盛り上がってしまった。あの旅館の改装する前のあの渡り廊下、あそこの階段下の休憩スペースなどなど、このご夫妻は、旅館空間の達人であった。そうだ、旅館の楽しみ方は、ロビーにも、風呂にも、客室にも、そして、迷路にもあるのだ。それを、迷宮にさせるか、名宮(パラダイス)にするかは、ひとえにデザインの力にかかっているとメキシコで教えられた。

2-4カミノリアル(再01)