青椒肉絲と回鍋肉

updated: 2016.12.01.

青椒肉絲と回鍋肉。
料理に共通する空間デザイン

「ピーマンと豚肉の細切り炒め、お待ちどうさま」と、若いアルバイトの男の子が、香り立つ青椒肉絲を運んで来てくれた。「えっ、牛肉ではないの?」と驚き、皿をのぞき込めば、大丈夫、しっかり、牛肉であった。東京・神楽坂の戦前から続く家族経営の良心的なお店での一コマだ。その後、女性から「先ほど、豚肉って説明しましたか?すいません、自宅で良いものを食べさせていなくて。今年から大学生になったので、店を手伝わせているんですよ」と、心温まるお話。「いえいえ、われわれにも同世代の息子がいるので、お店を手伝うなんて偉いですよ。それに、そもそも青椒肉絲は、豚肉だとか」。けれども、ピーマン、筍など、そして牛肉を“同じ細切り”にし、歯こたえを楽しむ料理なのだから、豚肉ではちょっと物足りない。豚肉を味わうなら、野菜と折り重なるように食べられる回鍋肉のほうが、脂身が溶け合い、味に重なりがあると思う。
「えーと、今度のデザインキーは、青椒肉絲にしたいんです」と、話し始めると、ほとんどのクライアントの方は、また、石川君の訳のわからない謎かけですねと、怪訝な顔をなさる。その心は、異種のものが、同じ歯ごたえになるように整えること。つまり、部材の寸法を整えると、空間にリズムが生まれる。岐阜県・高山市の吉島家住宅の土間の吹き抜けの小屋組みや、谷口吉生氏の作品に多く見られる細い柱のリズムは、繊細な歯ごたえとともに味が広がり、やっぱり、青椒肉絲にたとえられるかもしれない。
 その点、回鍋肉は素材の重なりで厚みを出しているなんて、丹下建三先生の東京・代々木のオリンピックプールのようだ。あの天井は、構造体であるスチールの伸びやかな曲線とパネルが重層することによって、空間にダイナミックさを生んでいる。ほら、そういわれると、回鍋肉みたいでしょ。
 そんなことを考えてご飯食べてもおいしくないでしょう。と現実に戻され、あきれた声とともに、「では、ロブションの有名なポテトは、あなたが好きな韓国のオンドル部屋だね」とのお話。あれは、ポテトにたっぷりのバターとミルクと塩を混ぜ合わせて、とことん肌理を細かくしたシンプルかつ究極の一品で、世界にロブションの名を知らしめた傑作中の傑作。確かに、日本の蚊帳の中にいるようないろんな要素が溶け込んでいるが、それはすべて細かい粒子になって、空間を包み込んでいる。
「デザインは」とか「空間は」とか、大上段に構えるのは好きではない。左脳で考えた時は、当たり前だけれど、頭でっかちになってしまう。かといって、右脳だけでは、小細工に走りやすい。きっと、たぶん、考える前の「何か」を感じ、それを人様にも共感してもらいたいと思う。そう、おいしい料理を、身近で味わうように。