風をデザインする

updated: 2018.10.01.

目に見えない風を取り込み
美しい景観へとデザインする

 伊勢地方の民家は妻入りで、その上部には南張という板が外壁の前に張ってある。その逆は平入りで、多くの伝統的な街がこの平入である。勾配屋根は水が流れ落ち、その一番下が軒となり、その軒が連なり、落ち着いた町並みの景観となる。ちなみに、その手法は現代にも生きていて、この軒先を揃えると町が連続して見え、馴染みやすい。伊勢地方の民家に、逆の妻入りが多い理由は諸説ある。いわく、伊勢神宮が平入りなので、それに敬意を払ってというのがよく聞かれるが、他には、雪が少ないので隣地への滑雪の心配がない、雨が多い伊勢においては、お客を濡らさないで出入りがしやすいとかである。ともかく、妻入りが定着して、外壁とは別のもう一つの外壁が南側にのみ貼ってあるのはなぜか。それは、台風対策からである。木造の民家は、軒裏を巻き上げる風であおられ、屋根が破壊されるメカニズムになっている。また、壁と屋根のジョイント部分も、構造的には基本的に隙間があり、巻き上げるような豪雨に対して漏水しやすい。そこで先人の知恵は、もう1枚の壁を付けることで風圧を弱めて対処する、ということであった。
 空気は、質量は軽く粘性が高い。したがって、隙間に押し込む力は弱く、物に当たると勢いが衰えるという特性がある。伊勢の南張は、この特徴をよく捉えていて、前面で一度受けてしまえば、風の力を急速に落とすことができる。それが独特の意匠となって、今日まで引き継がれている。余談だが、圧縮された空気は、温度が急激に下がる。それ故に隙間風は寒いのだが、これは外部の風の問題よりも、内部で外気の空気圧に対してマイナスになっていること(基本的に、建物は排気しているから負圧になりやすい)から生じていることが多い。一生懸命、隙間対策で目張りをすると隙間風が増えるという珍現象が起きるのはこの理由だ。
 畑の中に点在する高い樹木。冬は風が強いのかとすぐに察せられる、北関東の農家にみられる敷地の北側に高い植栽をする防風林。鞆の浦に代表されるように、海から直近の山で風を遮り舟を守り、出航のための風が変わるのを待つための湊。5月の頃、薫風の中をはためく鯉のぼり。目に見えない風を取り込み、美しい景観へと昇華している。
 スペインの田舎の高速道路を走っていると、風力発電の白い風車の塔の群れが延々続く。ラ・マンチャ地方だったら、昔ながらの風車の光景が今でも見られるのだが、現代の風車は、一つの単体は極めて合理的につくられ画一な形なのだが、緩やかな地形に沿って連なる風景は、新しい一つの絵画のようになっていて、思わず車を止め、あぁ、風が吹いているな、と立ち尽くしてしまう。現代においても、新しい風を取り込んだ形があると教えられた瞬間でもあった。