イサムノグチ庭園美術館

updated: 2010.11.01.

庵治石に魅せられて

 庵治石をご存知だろうか? 香川県高松市の郊外に位置する牟礼の山で産出される日本最高の花崗岩である。その魅力は、肌のきめ細かさとそれに伴う一見グレーにも見える微妙な色彩の奥行きの深さ、磨くほどに光沢を放つ硬度の高い石質にある。高級墓石としても有名で、多くの人を虜にしてきた。その庵治石に惹かれた一人がイサムノグチだ。
 庵治の町はかつては200もの石屋が軒を並べ、完成した墓石や灯篭、その過程にある原石、彫りかけ、磨きかけの石、彫り出された石の残骸が、至るところに積み上げられた異様な世界が広がっていた。かつて私も、この石の残骸を積み上げた風景にインスピレーションを得て、岐阜県・飛騨高山温泉の本陣平野屋花兆庵の石のオブジェを10作品ほど造った。
 イサムが惹かれたのは、庵治石、万成石(岡山県で採れ、柔らかいピンク色が特徴。国会議事堂に用いられたことでも有名)をはじめとする瀬戸内周辺で産出される花崗岩と、何よりも和泉正敏さんを中心とした世界最高峰の技術を持つ石の職人達がこの地にいたからだ。イサムが60歳を目前にしたころだった。その後、88歳で世を去るまでの輝かしい晩年の作品は、和泉さんとのコラボレーション抜きでは語れない。東京、赤坂にある草月会館の1階プラザ、土門拳記念館の中庭、シアトル美術館前庭にある「黒い太陽」、ニューヨーク、メトロポリタン美術館にある「つくばい」など数え切れない。
 石という素材は、圧倒的に重たい。人の目は敏感なので、持ち上げてもいないのにその重量を感じてしまう。山から切り出した発破やノミの跡があれば力強く、磨けばその度合いによって光沢を放つ。その分、イサムノグチの求める抽象的な形態と石の造形との融合は、石職人達の高度な技術と一体になってこそ可能であった。数年前に竣工した首相官邸の前庭の石の彫刻群も和泉さんによる作品である。官邸で制作中の彼の仕事ぶりを見る幸運な機会があったが、周りの人達が息をひそめて見つめるだけしかないほどの緊張感が張り詰めていた。香川県・牟礼のイサムの仕事場やイサム家(かつての住居)を案内してくれた柔和な彼からは想像もできない、本来の職人の迫力がそこにはあった。
 イサムの仕事場は、ゴルフの大きめのグリーンほどの円形に粗い石を高さ数mに積み上げた上に建つ。「マル」と呼ばれ、現在はイサムノグチ庭園美術館として一般開放(要予約)されている。香川県・丸亀市から移築した古民家の裏山の中腹に、泥かぶりの卵型の万成石がポツっと立ち、「マル」を見降ろしている。よく見ると下から3分の1ぐらいのところにノミで割られた痕がうっすらとある。中にイサムの遺骨が納められている。いつまでも立ち尽くしていたいほど懐かしい空気がそこにはある。

庵治石