ロンドン、テート・モダン

updated: 2010.05.01.

コンバージョンの可能性

 世界の金融の中心地、ロンドンのシティにはセント・ポール大聖堂など歴史的建造物が多く点在している。ダイアナ妃とチャールズ皇太子ご成婚の熱狂がロンドン中を埋め尽くしている頃、私はバックパッカーとしての旅の途中にこの地を訪れた。すぐ脇を流れるテムズ川の300mはあろうかという向こう岸に高い煙突が聳え立つのを見て、ロンドンの中心には産業革命時代から続く工業立国の面影があると合点したものだった。
 それから20年が経過、ダイアナ妃は離婚し、パリで謎の死を遂げてしまった。私が産業革命からの工場だと勘違いした巨大な煙突を持つ建物は、実は、第二次世界大戦後に造られた発電所・変電所だったのだが、今ではコンテンポラリー美術の収集で有名なテート・モダン(国立近現代美術館、2000年竣工)に生まれ変わり、世界中から観光客を集めるロンドン最大の観光名所のひとつになった。
 このギャラリーはロンドンのミレニアムプロジェクトの一環として計画され、世界の著名な建築家を指名してコンペティションが行なわれた。プログラムとして示されたのは、工業地帯として不毛のエリアに文化の力で開発ができるかということ。建築的には、既存の巨大な発電所・変電所のうち、発電所はすでに休止しているが、変電所は今後も稼働させる(12年頃、変電所を中止して美術館を増築する)というものだった。テート・モダンの成功は、最初の提示されたテーマの大胆さにあったと思う。同様な例として、グラン・プロジェクトの一環のオルセー美術館(1986年竣工)の成功がある。しかし、こちらはかつてのパリ万博用の華麗な駅舎で、機能としては完全に終結したものの、建築的には残すべき価値が高く、インテリアだけの改造であった。
 コンペティションはスイス・バーゼルに拠点を置くヘルツォーク&ド・ムーロンが勝った。既存の空間と素材には、可能な限り手を加えずに巧みに構成されている。目玉は、高さ40mにも及ぶ既存の巨大な吹抜けのタービン・ホール。ここをアトリウムとして再生させ、トップライトを配して各展示室に直接アクセスさせている。既存の煉瓦壁も新しいガラスとの対比により、その渋い素材感が心地良い緊張をもたらしている。
 発電所でもコンテンポラリー美術館に蘇生できる。コンバージョン(機能変更)の可能性の大きさを表す一例だろう。最近の日本においても、廃校になった学校が老人福祉施設になったり、工場になったりする例を目にする。その主たる理由は、既存躯体の活用にある。構造上は1981年の耐震基準の変更という巨大な壁が立ち尽くしている(おおよそ基準が25%程度厳しくなった)が、注目すべきは、新しく造るものよりも、それ以上の魅力が引き出される可能性をそこには秘めているということだ。

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