メトロポリタン劇場

updated: 2013.12.01.

NY・メトロポリタン劇場の「星の爆発」

 2008年7月18日のNYタイムズに、こんな記事が載った。「MET(メトロポリタン劇場の略)に、再び輝きが戻った。これは、NYの文化遺産だ。」ひとつの劇場ロビーのシャンデリアが、10週間のメンテナンスを終えたにしては、少々、大げさな気もする。コンテポラリーアートのガラス工芸品を文字で説明するのは少々難しいが、大小いろんな大きさの線香花火のようなものが、ロビーに浮遊していると想像してほしい。
 これは、1966年、オーストリア政府より戦後の復興支援の御礼として贈られた。デザインは、METの建築家W.ハリソンがビッグバン理論から発想を得て、ウイーンのロブマイヤー工房のハンス・ハラルド・ラートにより製作された。建築家の方は最先端の科学思想からの発想だが、製作側は、これを具現化するのに際し、ジャガイモに自転車のスポークを突き刺してモデル化した。その製作過程の写真を見ると、ジャガイモにスポークの方が不思議とリアリティがあり、デザイナーの頭でっかちな発想を、職人技で違う次元へとデザインを昇華させているのがよくわかる。さすが、ロブマイヤー!「そよ風に吹かれてグラスが弛んだ」という伝説を生んだモスリン・グラスの工房だ。このグラスで口にするワインは、その薄さとエッジのシャープさ故に味が明瞭になり、一瞬の切れ味を生み、人々を酔わせてきた。シャンデリアとグラスのガラスの材質はかなり異なるが、鋭く磨く技術は共通し、伝統的なその切れ味が、コンテポラリーアートにおいても発揮されたのだ。
 かつて国内のあるホテルで、有名なガラスメーカーのシャンデリアが納品されるところ見る機会があった。そこで驚いた。クリスタルのエッジの磨き方が、明らかに、甘いものばかりだったのだ。そのメーカーはその完成度が高いことで有名で、8割の製品はレベルに達しないとして廃棄されるとまでいわれている。発注者側がアウトレット品で良しとしたのか、メーカーが日本を甘くみたのか、真相は知らないが、そこは、そのメーカーのシャンデリアの空間として売り出されている。寂しい限りだ。
 METのシャンデリアは、スワロフスキー社の申し出により、製作から48年後にメンテナンスすることになり、4万9000個の部品は15の木箱に詰められ、3機の飛行機によりウイーンに運ばれ、磨かれ、再び取り付けられ、輝きを放った。その費用は、1億円だと、S社の広報は発表している。これが、冒頭のNYタイムズの記事だ。
 たかが、シャンデリアのメンテナンスに対して、誕生から現在の状況までを紹介した長文の賞賛記事に、尊敬と少しだけの嫉妬を感じる。それほどまでに、この「星の爆発」とも呼ばれるシャンデリアが、NY市民から、深く愛されているからに他ならないからだ。