上海ラウンジ

updated: 2019.05.01.

廻廊に展開するラウンジ
上海「ザ プリ ホテル アンド スパ」

 表通りから竹の並木を通り抜けると、真ん中に再び竹を配した、こじんまりとした車回しがあった。まちがって高級住宅に迷い込んだかなと思ったら、笑顔のスタッフが飛んで来て荷物を下してくれた。やはり、上海「ザ プリ ホテル アンド スパ」のエントランスであった。子供の丈ほどの石柱のオブジェが、艶のある瓦の床にポツンと数本、立っている。背後は細かい水の粒子が煌めいていて、滝かと思ったら、黒い細いメタルの簾であった。あたかも、千住 博さんが描く風景であった。
 折れ曲がって奥へと導かれ、中央に蘭がこじんまり生けてある10畳ほどの四角い部屋に出る。天井は2層分、ここも周囲の壁が黒い簾に覆われ、背後から暖かみのある間接光として包んでいる。その先には、床が艶のある漆黒の丸みを帯びた瓦の回廊が、まっすぐに伸びていた。奥行きはざっと50m、天井は5mぐらいだ。右手側は庭に面した大きな窓が続き、50cmほど落としてラウンジとして広がっている。注目すべきは、この窓を背に、手前からフロント、コンシェルジュ、ラウンジ、ティーラウンジ、軽食コーナーと、同じ高さのカウンターが一直線に伸びていることだ。上部には、黒の角棒が格子のように均一に連続している。その先端で、カウンター天板をスポットライトとして照らしてあり、圧巻の光景だ。このスクリーンとしての格子は、大都会の真ん中ながら、大きな窓の手前にあって、背後の庭の風景の上部を自然に切り取り、奥行を持たせている。特筆すべきは、その動線の合理性だ。フロント、ティー・軽食サービスが、臨機応変に対応ができる。それは宿泊客にとっても、チェックインの際の受付が増えることになり、待ち時間の不満を軽減させてくれる。バータイムには、間に簡単なテーブルを設置し、しっとりと庭に向かうアベックシートとなる。なんて、フレキシブルなカウンターとオペレーションだ。ちなみに、打ち合わせ明けで遅く起きた私が、上海焼きそばが食べれるかと黒服に戯言を言ったら、厨房に連絡し、10分で香ばしいピーナッツあふれる極上の一品を持って来てくれた。
 庭の反対側は、一見、壁が連続しているようで、ところどころ壁に穴を開け、池に面したライブラリー、会議室、エレベーター、トイレなどの諸室が、アルコーブとして組み込まれている。明確な諸室の連続で、変化に富む空間構成。東アジア的雰囲気がよく醸し出されながら、近代合理主義の力強さも感じるデザイン性。ここでは、二律背反のテーマが、みごとに昇華されている。この10年の間に見たホテルラウンジの傑作であり、次の時代への可能性を感じさせてくれる。