青森県立美術館

updated: 2010.12.01.

土と煉瓦

 三内丸山遺跡の野原に、白い水平線が背景の樹木の高さを超えないように、静かに延びている。2006年にオープンした青森県立美術館も「ホワイトキューブ」なのか。この美術館の当選案がコンペで発表された時、「土の表現」ということで、随分と話題になった。
 近づくとわかるのだが、この白い壁はただの白い壁ではない。煉瓦を積み上げ、白いペンキを塗って表情を出してある。これがとてもいい。一見ただの白い壁が、これほど魅力的に見えるのはなぜだろうか? NY・ソーホーの画廊の壁を思わせる。おこがましいが、私のオフィスの壁も、同じ仕上げなのは、単なる偶然に過ぎない。しかし、この地震国、日本においては、煉瓦だけでは自立しないので、背面から鉄骨補強をするという技術的裏付けがあって、表情のある「白い壁」がかろうじて成立している。
 内部のホール、各展示室は地中深くに掘り下げられ、床は土のように見える仕上げで濃い茶色、壁も土を積み上げたかのようになっている。なおかつ、ところどころに切れ込みをつくり、裏側まで回れるような仕掛けが施してある。展示室の合間に細長いスリットを設け外光を採り入れ、単調な「ホワイトキューブ」の連続にならないように腐心しているのが、設計者・青木淳のさすがな試みのひとつだ。
 ところで、個人的にはシャガールが好きではなかった。というより、学生時代、あの甘ったるいメルヘンチックにも見える表現が好きになれなかった。観る人に媚びているようで、世界中の美術館にある作品(彼は多作家で、90歳代半ばまで旺盛な創作をした)を前にして、足早く通り過ぎるのが常であった。
 しかし、青森県立美術館にあるシャガールの作品、バレエ「アレコ」の舞台背景を描いた3作(全4作で残る1作は、米・フィラデルフィア美術館でかつて観た)には、若い頃の自分はいかに観念的で、頭でっかちであったかを思い知らされた。この幅15m、高さ9mの大作は、三内丸山遺跡の脇にあって、奈良美智の《あおもり犬》とともに、客寄せパンダとなるのだが、本当にいいのだ。
 シャガールの深い「喪失感」が、こんなにも美しく表現されている。心の中が何かで満たされるのは、私が少し歳をとったからだろうか? 調べてみると、この「アレコ」は、ロシアで生まれたユダヤ人のシャガールがナチスに故郷を追われ、アメリカで過ごした7年間の亡命中の作品である。そしてこの間に、彼にとってもっとも大切なふたつのものをいずれも失ってしまった。生涯愛して止まなかった最愛の妻ベラを病で亡くし、故郷の村をナチスに焼き払われてしまった。その補いようもない深い「喪失感」が、「愛」という表現でこの作品を昇華させている。強い人だ。この作品に青森の地中静かなホールで対峙できる。至福の時間である。

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