素材選びのこつ

updated: 2019.04.01.

素材選びのこつ
塩抜き塩ラーメン

「大将、ちょっと、この塩ラーメン、味見してみて」と馴染みの店で、声を掛けた。その時の店主は、あっ、しまった!と目を見開いて、「すぐに、つくり直します」と、味見もせずに、私が半分ほど食べたものを捨てた。この店は、昔のフジテレビの下にあって、カウンター数席、テーブル2卓とこじんまりしていて、塩ラーメンが名物である。私も迂闊で、半分も食べてから、この味は変だなあと思った。塩ラーメンなのに、塩が入っていないスープだけのようだった。心当たりは、あった。調理中、仕入れの電話があり、店主は対応をしてそのまま提供してしまったというわけだった。
 その真逆も、経験したことがある。ロンドン、大英博物館の前にある、行列ができる評判のラーメン屋だ。味噌ラーメンを口にしたところ、思いっ切り、まずかった。得体の知れない味噌をお湯に溶いただけの代物だった。これほどまずいラーメンなのに、流行っていて、やはりイギリス人の舌はどうかしていると、改めて感心してしまった。
 15世紀初頭の室町時代、日本において書院造はでき上がった。現在、われわれが和風、数寄屋と思い浮かべるのは、ここに原型がある。誤解を恐れずに、書院造りの特徴をわかりやすく解説してみる。床は、畳の部屋が連結し、時に折れ曲がりながら連続して、庭と一体化する。天井は、木天井がその格式によって、高さ・仕様を変えながら、水平方向に延びていく。壁は、床の間や書院はその状況に合わせて設えられるが、他は障壁画・襖絵で、豪華絢爛や渋い水墨画だったりする。つまり、水平方向の動きは、床と天井でベースをつくった中で自由に動き回れ、垂直要素の床の間や障壁画で、格式・華やかさを演出している空間の構成である。不思議なことに、現代においても、基本的には変わらない。西欧の教会建築のように、一点に視点が集中するのとは、だいぶ様相は違う。
 これをラーメンに置き換えると、床は出汁、天井は味噌や醤油、壁の装飾要素はトッピングとなる。では、麺は何かという問いへの解は、もちろん、空間の中の人々の活動そのものである。改装などで素材選びをする時、私は頭の中でほぼ同時にイメージしている。ただ、それを説明する時は、まず床の素材を丁寧に説明する、全体のイメージを左右する基本の役目、つまり、出汁からだ。次に、天井。現在では、設備がたくさん埋め込まれて、その覆いのように扱われてしまう悲しいことが多いが、味噌や醤油の役目なので、丁寧に材料を選び、設備・照明を調整する。トッピング役の壁の装飾などは、目的に合わせて、お好みで自由にするという優先順位である。