ONOMICHI U2

updated: 2021.08.01.

大林宣彦の世界が息づく街、尾道
彷徨うのが楽しくなる
ONOMICHI U2とLOG

息を切らす石の階段が続く。路地のお地蔵さんの横から三毛猫がのそりと出て、じっとよそ者である私を見据える。目が合う。その目線につられて振り返ると、夕陽が港に落ちようとしていた。瀬戸内の島々を背景に巨大なキリンのような港のクレーンがシルエットとして浮かび上がる。懐かしさで胸が熱くなる。息を整え少し階段上の平坦なところにでる、その横が目的地の尾道LOGだ。昭和38年築の3階建てのごく普通のアパートを丹念に改装して、6室のインテリジェンスの塊りのようなスモールホテルにしている。デザインしたのは、インドに拠点を置くスタジオ・ムンバイだ。ドメスティックな材料、工法を生かして作り上げることで、今や世界的にスターになったデザイン事務所である。
客室は真っ白の和紙で包まれていて、朝鮮半島のオンドル部屋のようだ。インド在住といっても、ほとんどが欧米のデザイン教育を受けた彼らの眼からみた日本(尾道)は、東アジアの中の一画で括られているのかもしれない。

千光寺に続く階段に迷いながら降りていく。路地に小さなスケールの住宅が不規則に連なる。明確な区分や、私の嫌いな言葉「ゾーニング」もない。まさに、大林亘彦監督が描いた映画の世界だ。古いもの、新しいものが混然となり、その中を迷い込む。不思議なことに、いずれ、港に行き着く。そっけない古い港湾用倉庫2棟が岸壁の横にある。一棟は、今も現役でフォークリフトが行きかう。もう一棟が、「ONOMICHI U2」。自転車が自室まで持ち込めるホテル、イベントスペース、地元製品を売るショップ、レストラン、自転車屋などが収まっている複合施設だ。

ホテルは、20㎡ほどの客室が30室足らず、軽量鉄骨造で、2層にして、倉庫の中に嵌め込んでいる。元の柱・梁は剥き出しで、コンクリートの色が、鈍いグレーにうっすら光る。鉄骨は黒に塗られ、客室にも続く。壁はグレーで、浴室もグレー一色だ。まるで、古いトーキー映画のようにも思える。この色調は、ショップにも続いていく。ベーカリー、地元のクラフト土産店、飲食も、バー、軽食、レストランと雑然とし、各々が小さい。境界はなく、元倉庫特有の天井が高く、大きな薄暗い空間に混然とばらまかれている。その中を、ぐるぐる彷徨う。小さなバラバラなスケールのものが、尾道の街のように、迷路となって不連続で、それでいて連なっていく。

バーで買ったビールを片手に岸壁の脇にあるデッキにでる。潮風が心地よい。大きなスポーツバイクの自転車屋さんは、瀬戸内海を挟んだ今治側にもある。よし、次回は、ロードバイクを借りて、しまなみ海道を走ろうと思った。