ラムネ温泉館
updated: 2015.12.01.
エッジの効いたエッジレス
ラムネ温泉館
ぬるめのお湯に浸かり、瞑想する。ふと気づくと、身体中が銀色の泡で包まれている。静かに指でなぞると、そのままの形が残る。お湯も柔らかい。源泉掛け流しの湯は、鉄瓶に入れたラムネの味がする。なるほど、ラムネそのものに浸かっているから、ラムネ温泉館か。ここは大分の山奥、長湯温泉の「大丸旅館」の外湯だ。露天風呂は31℃ほどなのに、炭酸の気泡で包まれるためか、ほんわか温まる。商売柄、温泉を訪れることはめずらしくないが、いつもカラスの行水で、もっぱら湯殿観察に明け暮れることが多い。されど、この柔らかな湯と空気のおかげで、私でも1時間以上浸かっていた。
柔らかさを醸し出してるのは、泉質だけではなく、この建築からだ。東欧の田舎の風景のような異質感は、嵐山光三郎の言葉を借りれば、「外から見ると山賊の隠れ家みたいで、なかに入ると茶室を思わせる」。訪れる人をほんわかさせるのは、このデザインにある。
設計は、藤森照信。東京大学の建築史の偉い先生で、45歳を過ぎてから建築家デビューを果たしたはずだ。個人的には当時、雑誌の取り上げられてもピンと来なかった。認識が一変したのは、秋野不矩美術館(1997年、浜松市)を訪れてからだ。外観のポエティックな表現に戸惑った。でも、土壁の持つ柔らかさと大きな屋根、斜めの壁などのスケール感が心地良い。靴を脱がせてから目線を下げたり、床に座って鑑賞するという内部のトリックから藤森ワールドは展開する。狭く低い空間から広く高い空間への変化、白く微妙な陰影の変化。綿密に計算された空間構成に、歴史の先生の素人芸などと先入観を持っていた自分を恥じた。
ラムネ温泉館も然りである。てっぺんに松の木を載せた尖った屋根の群れは、赤塚漫画のワンシーンのようだが、渓流沿いに連なり、山深い湯治場にあって、その小ぶりなスケール感とは逆に、圧倒的な存在感を放っている。ピラミッド形のホール、いくつかの塔を有した家族風呂、浴室などの群れの配置も、川に向かい閉じつつ開くという合理性のなせる技であった。外壁は、焼き杉と白漆喰の縦ストライプ。屋根は銅板を意図的に切りっぱなしにして、雑多に重ねていくように葺いている。躙り口のように低い湯殿の入口を入ると、天空から光が差し込み、湯気に包まれる。中近東のハマムのような佇まいだ。壁は意図的に雑多に塗られた白漆喰。これに温泉の鉄分が少しずつ混じって、ごく自然に土色に染まっていっている。お湯と同じように、どこでもヌルヌルでエッジレスだ。どうしても機能的に必要な水道の蛇口も白い板で囲い、見えない配慮がなされている。いやいや、デザイン・空間の構成はポエティックな表現を纏いながら、相当エッジが効いてるぞ。ぬるめのお湯が、だんだん藤森ワールドに浸からせてくれた。