TWAホテルとMIYASHITA PARK
updated: 2021.04.01.
時間と空間がシークエンスする
NYの「TWAホテル」と
「sequence MIYASHITA PARK」
「石川さんの女性の好みは?」「やはり、三拍子揃っていないとね。」 ずいぶん昔にした気の合う女性の同僚との会話だ。「タレ目 タレパイ タレ尻、願わくば、なで肩」。今なら、完全にセクハラでアウトなのだが、「なんだ、彼女のことじゃないですか、ノロケですか。」と呆れられてしまった。いや、建築の空間を造る技法の話なんだよ。好みの建築空間(彼女)の話だと思って真面目に応えたのだが、話す順番を間違えてしまった。シークエンス、回遊、連続という考え方がある。代表的なのが日本の回遊式庭園。庭をぐるぐる廻り、東屋で休憩しながら風景を愛でる、空間が連続して広がっていく。音楽でも、フレーズを繰り返しながら進行していくことをシークエンスという。フランク・ロイド・ライトも、日本の一点に収束しない空間の連続性にインスピレーションを受け、巨匠までになったではないかと、理論を語りながら、背中は汗びっしょりだった。
床からカウンターまで2㎝ほどの白い丸いタイルが滑らかに連続している。NYの「TWAターミナルビル」は、小さな輝き――—昭和30年代の日本の便所においてよく使われた廉価のポリコンモザイクタイルで覆われていたのは有名な話だ。ミッドセンチュリーの傑作だが、2001年に閉鎖された。壊されてしまうのかと危惧していたら、05年にアメリカの国家歴史登録財(日本の重要文化財に相当)に指定され、一昨年、背後に客室を増築し、ターミナルは、ホテルのロビーとなり復活した。この名作が時間を経ても、連続してくれてよかった。早く泊まりにいきたい。
シークエンスなロビーは、昨年渋谷にオープンした「sequence MIYASHITA PARK」でも見られる。モルタルで塗りこめられて差異がない床からベンチが連続している。このグレイッシュな感じは、客室に至っても、壁、洗面台、シャワー室の床、壁と連続している。チェックインが17時でアウトが翌14時。ターゲットは若者で、渋谷の活き活きした時間と連続していると感じさせてくれる。
いや、連続しているのはインテリアの設えだけではない。ロビーからカフェへ、そのまま芝生の広場、横にはスターバックス、大階段、フードコート、小ぶりなレストラン、プラダ、ナイキ、路地裏のような飲み屋街。そして、渋谷駅とシークエンスしている。傍らには、山の手線が轟音を響かせ、新しく出来た高層ビル群がLEDライトを纏って夕闇に浮かぶ。改めてここは渋谷の真ん中と実感する。かつて、ホームレスとストリートファッションで身を包んだ若者達で賑わっていたあの宮下公園が、「立体都市公園」という行政と商業の力によって、新しいラビリンスに作りかえられようとしている。